コント「ニュースキャスター」

テレビのニュースキャスターらしい。スタジオに男女。

A「それではみなさん、また明日」
A、B、頭を下げる。

 

A「ふう」
B「どうされたんですか?」
A「おれもう、向いてないのかな、と思ってさ」
A、自嘲的な笑い。
B「骨がですか?」
A「え?」
B「骨が、向いてないんですか?」
A「性格かな」
B「ああ」
A「なんかさ、最近はこうやって原稿読んでるとストレスがたまって、いらいらしてくるんだよ」
B「骨がですか?」
A「気持ちが」
B「ああ」
A「うん」
B「じゃあ、カルシウムとったらいいですね。牛乳とか」
A「それさ、骨にも良くないかな?」
B「骨にもまあ、良いと思いますよ」
A「そうか」
B「ええ」
A「……」
B「なんでそんなこと聞くんですか?」
A「まあ、うん、いや、いいんだ」
B「でも、ストレスは良くないですよ。そうだ、自転車お好きでしたよね。あれでパーっとサイクリングでもしたらどうですか?」
A「そうか、久しぶりにそれも良いなあ」
B「いいですよ、自転車は。フレームがあるし」
A「うん」
B「フレームって、骨組みですよね、つまり」
A「君さ、骨、好きなの?」
B「Aさんのですか?」
A「え? いや、まあ、全体の話」
B「好きですね」
A「どのへんが?」
B「なんとなくカッコいいじゃないですか」
A「そう」
B「ええ」
A「……」
B「……」
A「僕の骨はどう?」
B「かわいいと思いますよ」
A「そう」
B「ええ」
A「今度さ、サイクリング行かない?」
B「いやです」
A「そう」
B「……」
A「……」
A「……………はああ」
さっきより重いため息。
B「大丈夫ですか?」
A「やっぱりさ、おれ、向いてないんだよ。一人で海岸走ってるほうが楽しいんだよ。東北とかさ。向いてないんだ」
B「そんなことありませんよ、疲れてるんですよ」
A「いいや、だめだ、やめるよ」
B「キャスターやめるんですか?」
A「もう、それくらいしてもいいかもしれない」
B「やめてどうするんですか?」
A「そりゃあ、サイクリングだよ」
B「やめなくてもできるじゃないですか」
A「時間がないよ。おれ、東北に行きたいんだよ」
B「毎日5分ずつって決めてやっていったらいいじゃないですか」
A「どうすんだよ。どこにも行けないよ」
B「今のAさんみたいですね」
A「え?」
B「まるで…………今の、Aさんみたいですね」
B、照れている。
A「……はあ、もう、本当に休暇でもとろうかな」
B「そうですよ、骨休めですよ」
A「やめた」
B「なんで」
A「骨はきらいなんだよ」
B「そうなんですか?」
A「そうだよ、向いてないんだよ。助けてくれよ。わーーん」
A、テーブルに突っ伏して泣き出す。
B「明日の原稿ってどこでしたっけ?」

 

コント「しゃべったら負けゲーム」

舞台中央で椅子に座っている二人。二人の間にテーブル。

 

A「今からしゃべったら負けゲームやろうぜ」
B「いいよ」
A「はい負け」
B「……」
A「1000円」
B「1000円?」
A「ルールだから」
B「聞いてねえよ」
A「守ってくれよ、ほら、1000円、はーやーく」
B「よーし、いいよ、払うよ。ただもう一回やろ、しゃべったら負けだからな」
B、Aに1000円札を手渡しながら。
A、うなずく。

 

B、黙っている。
A、黙っている。

 

A、無言で1000円札をBの前に置く。
A「恥ずかしい」
B、驚きながらも、黙っている。
A、1000円札を回収する。
B「待って」
A「はい負け」
B「待って、ちょっと待って」
A「負けだよ。1000円」
B「いや、ちょっとおかしいだろ、お前話したじゃん」
A「1000円出しただろ」
B「いや、その1000円を回収しただろ、お前」
A「してないよ」
B「えっ!?」
A「した」
B「したよな」
A「でもそれはゲーム外の話だからさ、しりとり中にじゃんけんで後出ししても、しりとりの勝敗とは関係ないだろ。ゲームの外とゲームの内とを切り離さなきゃ。しゃべるかしゃべらないかが問題なんだから」
B「じゃあ、そもそもお前が1000円置いて話したのがズルじゃんか。負けだろ」
A「いや、しゃべったら1000円払う、ていうゲームだからね? それはゲーム内。のばすの棒」
B「のばすの棒?」
A「ゲーム内。ゲーーーーーム」
B「……」
A「だから、しゃべったから1000円払った、これはゲーム内。そのあとお金を回収するかどうかは、ゲーム外」
B「それだったら、1000円払い続ければゲーム中でもしゃべっていいわけ?」
A「いいけど」
B「というか、一枚の1000円札を出したり引っ込めたりすれば一生ずーっと話せちゃうじゃないか」
A「会話ってそういうものだろ」
B「そういうものじゃないよ、今も1000円札は動いてないだろ、今も」
A「じゃ借金してるの?」
B「してないよ」
A「あれか、為替レートか」
B「ちがうよ。そもそも今ゲームやってないし」
A「ああ」
B「うん」
A「丸だ」
B「丸?」
A「ゲーム外。○ゲーム○」
B「ああ」
A「……」
B「まあ、でも、よく考えたらだよ、おれはお前に最初負けたとき、ちゃんと1000円札を手渡したよな。でもお前は置いただけで、ちゃんと払ってないよな。それはゲーム内の不正なんじゃないか?」
A「でもさ、お前そのあと負けたけど1000円払ってないよな、相殺だな」
B「……」
A「……」
B「なんか、釈然としないよな」
A「それが、悔しさを知るってことなんだろうな」
B「え?」
A「……」
B「ところでさ、恥ずかしい、て、なんのこと?」
A「10000円札でできないから」

 

コント「夫婦」

夫婦らしい。舞台中央にテーブル。左に妻A、右に夫B。

 

A「聞いてよ、すごいもの見たの」
B「どんな?」
A「「ざます」ってしゃべる人」
B「そりゃすごいな」
A「ここの交差点も、昔は海だったんざぁますね……」
B「どういう会話なんだ」
A「私が歩いてたら、交差点があったのよ。ほらあの、くすりの長田のところ」
B「ああ、あの交差点な、ミドリベーカリーの」
A「え? ちがうちがう、くすりの長田のところ」
B「ん? 合ってるよ。くすりの長田の隣がパン屋だろ、ミドリベーカリー」
A「ちがうでしょ、隣はもう交差点よ」
B「反対の隣は?」
A「反対の隣?」
B「だから、交差点じゃないほうの隣だよ」
A「そこはリンゴ屋さん」
B「リンゴ屋さん?」
A「リンゴ屋さん」
B「そうだっけ?」
A「じゃああなたは、くすりの長田の隣はなんだって言うわけ?』
B「パン屋さん」
A「そこ、リンゴ売ってない?」
B「売ってないだろ」
A「ほんとに?」
B「まあ、アップルパイとかはあったかもしれないよ」
A「リンゴ屋でもアップルパイは売ってるよ」
B「そうか」
A「本屋さんでもパズルとか売ってるじゃない、知恵の輪とか」
B「そうだな」
A「そうよ。だから言ったじゃない」
B「うん……」
A「シリンダーってキャブレターとどう違うのかしら?」
B「待てよ、なんの話だっけ?」
A「だから、リンゴ屋でアップルパイは売ってるっていう話」
B「そうじゃないだろ、そこはパン屋だと思うんだよ、おれは」
A「でも、アップルパイを売ってるなら、リンゴ屋の可能性も高いでしょ?」
B「そんなことはないよ。パン屋でもアップルパイは売るだろ」
A「リンゴ屋ならアップルパイもあるはずじゃない?」
B「だから、アップルパイだけじゃなくてさ」
A「ねえ、もしあなたがリンゴ屋を開くとするでしょ、そしたらさ、アップルパイも売ってると思わない?」
B「まあ、リンゴ屋だったら、アップルパイも売るだろうな」
A「ほらご覧なさい」
B「まあいいよ、くすりの長田があって、となりが交差点になって、反対側の隣がその、アップルパイの店だよな。あの交差点だな」
A「そうね、まったくもってそうね」
B「で、その交差点が昔海だったと」
A「そうよ」
B「ふーん」
A「なんでも3丁目のドラッグストアばんそうこうの辺りまでそうだったんですって」
B「え?」
B「ドラッグストアばんそうこう?」
A「ドラッグストアばんそうこう」
B「そこは、ばんそうこうを売っているんだろうな」
A「当たり前じゃない。ドラッグストアよ」
B「ばんそうこう以外はあるのか? 包帯とかさ」
A「あるわよ。あなた、それはこだわりすぎでしょ、フラワーショップ・パンジーとかありそうじゃない」
B「ありそうだなあ」
A「でもパンジーって夏はないでしょ? だからフラワーショップ・パンジーよりドラッグストアばんそうこうのほうが親切だと私思うのよね」
B「親切」
A「親切」

黙ったあと、同時にお茶を飲む二人。